犀の角の日記

ブログ、はじめました。そいつで大きくなりました。

卵かけご飯に関する試論——何が卵かけご飯をより美味くするのか?

・導入
 卵かけご飯は人類史上稀に見る発明と言える。ほかほかのご飯の上に卵をかけ、ご飯と混ぜる。味付けは醤油だけでも良い。これだけ手軽に作れながら、さっさと食べることもできる。『善の研究』で知られる西田は彼の主要概念「純粋経験」の例示として「美しく妙なる音楽を聴いているとき」を挙げていた。しかし彼がここで卵かけご飯を例に挙げなかったのは、きっとその存在を知らなかったからに相違ない。卵とご飯、卵かけご飯とそれを食す私、いずれも我(主観)と物体(客観)が分かたれる以前の、我々の意識に直接与えられる経験や事象である。彼には是非とも卵かけご飯を食していただきたかった。

 そんな話はどうでもいいのだ。そしてここからの話もどうでもいいのだ。どうでもいいが書くのだ。ここからの話とは何かといえば、卵かけご飯をより美味くする調味料とは何か、という話である。たしかに卵かけご飯はそのまま食べても美味しい。醤油というシンプルな味付けだけでもご飯がご飯がススムくんである。だが、そのような卵かけご飯をより美味く食べられるようにする方法があるとすれば、それは鬼に金棒、ヒカキンに最新最高の機材、吉田沙保里に対物ライフルである。そしてそうした方法はあり得るように思われる。
 私はよく卵かけご飯を食べる。理由は「作るのにも食べるのにもお金も時間もさほどかからないから」である。社会は私に厳しいが、卵かけご飯は優しい。そんなわけで卵かけご飯にはよくお世話になる。しかしそんな私でも人間である以上欲求がある。「もっと美味しく卵かけご飯を食べられる方法はないのか…」。卵かけご飯がそのままでも美味しいのは、繰り返し述べた通りだ。しかしより美味く食べられる余地が少しでもあるならば、試さない手はない。「精神的に向上心のない者は馬鹿だ」という言葉もある。平成仮面ライダー屈指の人気作『仮面ライダーOOO/オーズ』でも欲望の重要性を説いている。明日という日を迎えるのも、欲望あってこそである。
 というわけで、以下では卵かけご飯をより美味く食べられる調味料と、その感想を書いていく。紹介する調味料は6つである。言うまでもないが、感想は個人の意見である。しかし、中には友人に勧められて試したものもあるため、私個人の舌が狂っているわけではなかろう。興味があれば、是非試していただきたい。また、ここでは元となる卵かけご飯を「ご飯・卵・醤油を組み合わせたもの」とする。前置きが長くなってしまったが、それでは紹介へと入ろう。


・調味料と感想
①塩
 まずは塩である。おそらくどの家庭にもあるだろう。ないのは一人暮らしをしている平均的な男子大学生の部屋ぐらいだろうが、塩は結構重要である。いざというとき、塩を舐めて水を飲んでいればしばらくは生きていられる。そういった意味でも、小さい塩を一瓶置いておくだけでも変わる。なんなら塩を自らに振りかけて、身を清めた気分になることもできる。しかしそんなことより彼がするべきなのは、さっさと風呂に入ることだろう。
 さて感想だが、まあ悪くはないがなくてもいい、という程度である。元々醤油によってしょっぱい味があるところに塩を入れるのは、得策とはいえない。下手をすれば不味くなってしまう恐れすらある。醤油とのバランスも考えれば良いのかもしれないが、あまりオススメはしない。

②塩と胡椒
 続いては塩と胡椒である。基本的に料理の味付けに際して、塩と胡椒さえあればなんでも美味くなる。野菜炒めにしろ肉にしろスープにしろ、塩分と胡椒の風味・刺激の組み合わせは料理を引き立たせてくれる。そんな塩と胡椒が卵かけご飯に合わないはずがない。
 …そう思って試したのだが、別に大して美味しくはならなかった。はじめは分量が少なかったのかと思い量を足してみたが変わらなかった。醤油と塩・胡椒がケンカしているわけではないのだが、別居しているとでもいえばいいのか。とにかく彼らは交わらず、それぞれがそれぞれの主張をするのみである。他に紹介する調味料の方がよほど試す価値があると言えよう。
 余談だが、私の部屋には大学一年の頃から置いてある塩胡椒のボトルがあるのだが、最近その塩と胡椒が、公園の砂場にある砂にしか見えなくなってきた。このまま使っていても大丈夫なのだろうか。もしかしたら俺が塩と胡椒だと思っていたのは、そこらへんの砂に過ぎないのではなかろうか。疑問は尽きない。

③ブラックペッパー
 今度は黒胡椒である。上では塩とともに胡椒についても言及したが、やはりただの胡椒と黒胡椒では味も風味も異なる。味付けに関してより刺激を求めるならば、断然黒胡椒を選ぶべきだろう。
 しかしその感想は、残念ながら上記のものと同様さして美味しいと言えるほどではない。やはり混じり合わないのだ。黒胡椒は美味しい。卵も美味しいし、醤油も別に悪くはない。しかしこれらは決して融和しない。食べていても「卵かけご飯の味と、ブラックペッパーの味がする」というだけである。それならその黒胡椒はカルボナーラにでもぶちまけるのが良策であろう。

④砂糖
 ここに来て読者は「こいつ気が狂ったか」と思われるかもしれない。その気持ちは分からなくもないが、私は至って正気である。たしかに「しょっぱいものと甘いもの足して何が美味くなんだよボケが」と言いたくなる気持ちもわかる。私もはじめはそうだった。これは友人から勧められて試したのだが、私も聞いた当初は「こいつ完全に頭か舌がイッてやがる」と思った。
 だがその味は、決して悪いものではないのだ。それどころか、むしろ美味いのである。半信半疑で試したこの組み合わせが、意外なことにもマッチするのだ。おそらく砂糖が醤油の味を緩和させながらも、ほのかな甘みを演出してくれるおかげだろう。これは上で述べてきたものたちと違い、別居することもなければケンカもしない。卵かけご飯を砂糖が引き立たせてくれる。少しでも興味があれば是非とも試していただきたい。
 しかしひとつ注意点があるのだが、それは砂糖の量に気をつけることである。いわゆるご飯茶碗一杯に対して、入れる砂糖の量は大体1gがベストといったところだろう。それ以上だと甘さが勝ち、極めて食べ物に対する侮辱を感じざるを得なくなるし、少ないと少し物足りなくなる。欲望は重要な要素だが、過ぎたるは及ばざるが如しである。

⑤七味唐辛子
 残りも少なくなってが、ここで辛みの登場である。私は辛い食べ物が割と好きな方ではあるため、七味唐辛子も部屋にある。何かにつけて「物足りない」と思えばとりあえずかける。それだけで大抵の食べ物は美味くなる。それが辛さの魅力と言えよう。
 しかし卵かけご飯との相性は良いとは言えない。悪いというほどでもないのだが、ほかの食べ物と比べると七味をかけたところであまり美味しくならなくなってしまう。無いよりはマシだが、あったからといって特別美味しくなるわけでもない。特に言うべきことがないという点では、ここで挙げる調味料の中で最も悲しい存在かもしれない。もう少し寒くなってくれば「かけそば」という最強の相棒が出てくるので、やつが輝くのはやはりそこなのだろう。

食べるラー油
 いよいよ紹介するものも最後となった。食べるラー油(以下、食べラー)はそのままご飯にかけてもよいし、他にもさまざまな料理に使っても美味しい。ラー油の辛さと香味、フライドガーリックのザクザクとした食感が食欲をそそる。一時期「食べラーが美味しい!」とメディアで紹介されて以来、調味料界において一定の地位を築いている。少し脱線するが、個人的にはご飯に食べラーをかけて食べるのはあまり好きではない。やっぱり口の中がベタつくのよね。
 そしてその気になる感想だが、これは最高の組み合わせである。もはや他に何が必要なのかと問いたくなるほどに奴らはベストマッチである。食べラーの辛味を卵がマイルドにするだけでなく、卵かけご飯に足りなかった食感をプラスしてくれる。互いの足りない部分を補い合える、それが卵かけご飯と食べラーなのである。おまけに個人的に好きではなかったラー油による口内のベタつきも、卵かけご飯となら気にならない。まさにこいつらこそが「ベストマッチなやつら」と言えるだろう。
 ちなみにだが、ただのラー油を卵かけご飯にかけてもさほど美味しいとは思えなかった。理由は七味と同様なのだろうか、やはり単なる辛味では足りないのである。食べラーとだからこそ、卵かけご飯はより輝けるのである。


・総括
 ここまで長々と書いてきたが、なんだかんだで卵かけご飯には醤油をかけてすぐ食べるのが良かろう。だってそもそもの理由として「手っ取り早く食べたい」から卵かけご飯を食べるのであって、別に卵かけご飯研究家になりたいわけではない。一般の人間には醤油さえあればよい。
 だがもし金がなさ過ぎて毎食卵かけご飯ばかり食べていて気が狂いかけているならば、試してみる価値は多いにある。変化あってこその生である。そうした試行の結果が思い通りのものとは違っていたとしても、何もせずに済ましてしまうよりは有意義なのではなかろうか。私はそう考える。